瞼の向こうが、うっすらと白く光っていた。
まどろむ頭に、小さな音が聞こえてくる。
カタカタと何かがぶつかる音。
誰かの微かな笑い声。
柔らかなベッドに身を横たえたまま、クラウドは目を開いた。
(あれ、俺・・・)
はっきりとしない意識のまま隣に手を伸ばすと、その場所は空っぽで右手は空を切る。
隣にいたはずのティファの姿はもうなく、変わりに階下から彼女の動く気配がしていた。
先ほど一緒に目を覚ました思っていたが、どうやら自分だけ不覚にも二度寝をしてしまっていたようだ。
(情けないな・・・)
彼女がもう立ち働いていることを思うと、なんだか恥ずかしい。
そうは思っても久しぶりの自分のベッドはやはり気持ちがよくて、クラウドは昨日も寝坊してしまっていた。
時計を見ると時間はまだ朝の八時で、二度寝はしてしまったが約束は守れそうだ。
だが起き上がらなければと考えても、身体は意思に反し、クラウドはその場にうつ伏せのまま目を閉じる。
クラウドがいない間も手入れをしていてくれていたベッドのシーツは、清潔で石鹸のいい香りがしていた。
柔らかい手触りも、さらなる眠りに誘うかのようだ。
(・・・また、マリンとデンゼルに怒られるな)
クラウドは二人の可愛い子供たちのことを思い浮かべる。
昨日、二人と久しぶりに四人で朝食をとることを約束していた。
昨日のように寝坊をしたら、二人から非難を受けるのは目に見えている。
けれど―
「・・・・・・」
ギシリとベッドを軋ませ、クラウドは寝返りをうった。
昨日ティファが寝ていた方に身体を動かすと、うっすらとティファの香りがする。
懐かしくて愛しい匂い。
やはりなかなか起きれそうになく、またクラウドは目を閉じた。
階下からは相変わらず、小さな、けれど賑やかな音が聞こえてくる。
カタカタ ・・・カチャ ザザッ・・・
(何の、音、かな・・・)
聞こえてきた音に、クラウドは階下を想像する。
ティファは朝食の用意で台所にいるようだ、皿を並べているのはきっとマリン。
(デンゼルは・・・)
どうやら店の表を箒で掃き清めているらしい、窓の外から彼が誰かと挨拶を交わす声も聞こえてくる。
小さな音なのに、目を閉じて聞いていると三人の姿が目に浮かぶようだ。
(なんだか、楽しいな・・・)
目を開いて、クラウドは笑みをこぼす。
同じ屋根の下で、自分以外の誰かの動く音が聞こえる。
足音。扉が閉められる音。笑い声。
早く起きなければいけないのにもう少しこの音を聞いていたい、そわそわと心が浮き立つようなそんな気分。
この音をもっと聞いていたいような、起き上がってこの音の輪に加わりたいような。
今、自分は部屋に一人っきりなのに、何も寂しい気はしなかった。
(不思議だな・・・)
少し前までは、どこにいても孤独感ばかりが付きまとっていた。
こんな朝は二度と来ないはずだったのに。
一度はこの幸せを、自分から放棄してしまっていたのだから―
カタンッ
階下からは、まだ小さな音が続いていた。
自然とクラウドから笑みが溢れる。
気が付けば、幸せはいつもすぐそばにある。
「起きないとな・・・」
四人で囲む朝食は、きっとたくさんの幸せが並ぶはずだ。
クラウドは三人の大切な家族との約束を守るため、起き上がろうと身を起こしかけた。
「あ・・・・・・」
小さな声を漏らすと、クラウドは慌ててまたベッドに身を横たえてしまう。
トントン、トン
軽やかに階段を駆け上がる音。
すぐにわかる。
(ずるい、な・・・)
子供みたいだと思いつつも、クラウドはまたもう一度目を瞑る。
笑みをかみ殺し、規則正しい寝息を立てて、音の主がやってくるのを静かに待つ。
扉の向こう。
ほらもう少し。
コン コン
扉が叩かれる。
これは愛しい恋人が、やってくる音。
end
久々の小説更新です。
クラティは久しぶりだったので、きちんと書けているのか心配でなりません・・・。
前話の9話で一段落でしたので、この10話から新展開のようなつもりです。
今までなかなか更新できなかったので、続きはさくさく書けるといいのですが。
がんばります。
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