クラウドのバイクが、ある建物の前で止まった。
崩れかけた廃墟。
だが残った柱の形・窓枠・ステンドグラスから、そこが昔教会だったことが見てとれる。
ここはそう、あの「エアリスの教会」だ。
バイクのエンジンを切り鍵をかけると、クラウドは教会の扉へと向かう。
昨日ここで、たくさんの奇跡が起きたばかりだった。
古い木目の扉を押し開けると、心地よい木の軋む音が響く。扉の向こうはこれまでと同じく柔らかな光が差し込んでいた。
ただひとつ違ったのは、光を受け止める場所にあった美しい花々が、こんこんと湧き出る泉に変わっていたことだった。
争いの爪あともわずかだが残っている。泉への道を塞ぐように、大きな柱が倒れていた。
クラウドはその柱を回りこむと、ゆっくりと泉のふちに立った。
揺れる水面に自身の姿が映っている。
クラウドは星痕を発症してから、ティファたちの元を離れこの場所で一人で暮らし始めた。
それまでも時々この場所には訪れていたが、ここで夜を明かしたことは一度も無かった。
(ここに居れば、償えると思ったんだけどな・・・)
「セブンスヘブン」を出て、行く所を考えた時、クラウドにはこの教会しか思い浮かばなかった。
星痕を発症した自分。マリンやデンゼルに心配をかけたくなかった。何よりも、この姿をティファに見られたくなかった。
――過去に捕らわれたままなのが悟られてしまうから・・・・・・。
この教会の住み心地はそんなに悪いものではなかった。
屋根は半壊していたが雨風を防ぐには問題もなかったし、昼間は暖かい日の光が差し込んで心地よかった。
何よりもここには、わずかだがエアリスの気配が残っていた。
ここで花を育てていたエアリス。彼女はこの場所が大好きだと言っていた。
主がいなくなって二年がたっても、花は変わらずにその可憐な姿を残している。まるでエアリスがいつも手入れをしているかのように。
だが夜になるとこの場所にも、真っ黒な暗闇が押し迫ってきた。花の姿も闇に紛れ消えてしまうと、そこに残るのは圧倒的な静寂だった。
何の音もしない、気配もない。
――静かなのは嫌いじゃない。
そうは思っても、今のクラウドにこの孤独は辛かった。
新羅に入り親友ができ、ティファとも再会できた。
アバランチに入ってからはバレットの大声に悩まされ、飛空挺でもいつもどこかで誰かの声が聞こえた。
この頃から、クラウドはもう孤独ではなくなっていた。
セブンスヘブンで暮らし始めてからは、マリンの、デンゼルの、そしてティファの声が気配が必ずあった。
けれどこの教会の夜には何もない。
わずかな空間だけを照らすランプの光を見つめていると、真っ暗な闇に飲み込まれていく気分になった。
クラウドは目をつぶり、ただ毎晩夜明けを待った。
そして朝、日の光の中目覚めると、真っ先に誰かの気配を探していた。
こんな生活が続くにつれ、自分が闇に慣れていくのをクラウドは感じていた。
それでも毎朝目覚めると、誰かの気配を探さずにはいられなかった。
もちろん誰もいない。
昼間ここにいると少しだけエアリスの気配を感じることはあったが、自分が求めている気配が彼女のものではないのはうっすらとわかっていた――。
水面に映る姿は、ゆらゆらと一定に揺らいでいる。
かれることなく湧き出る泉のせいだろう。
薄い翡翠色のクラウドの瞳が、何かを探すように泉の周りを見渡した。
「もう、いないよな・・・」
彼女は昨日、あいつとここを旅立ったんだ。
満足気な笑みをたたえた二人の姿を、クラウドは思い出した。
この場所で暮らし始めたのは、償いたかったから、許されたかったから、謝りたかったから―。
たくさんの負の感情が渦巻いていた。
エアリスと初めて出逢ったこの場所にいることが、彼女のためだと思っていた。
(でも、違ったんだな・・・)
クラウドは振り返り、開け放したままの教会の扉を見た。
エアリスとザックスは、何の心残りも無いようにゆっくりと教会を後にした。
いつでも戻ってこれる、そんな声が聞こえるように。
ここは確かにエアリスにとっての大切な場所だった。でも、彼女にはもっと大切なものがあったのだ。
家族・仲間・愛する人―。それがエアリスの大切な世界。
ここはそんな彼女の「思い出の一部」でしかない。
そしてここはクラウドにとっても「思い出の一部」でしかなかったのだ。
(ここには、過去しかなかったんだ・・・)
ここで暮らした数ヶ月、思い出すのは過去のことばかりだった。
この場所で感じたのは、ただ自分が孤独なのだということだけ。
許しも、救いも存在しなかった。
ここは思い出の場所。
だからここは、俺の帰るべき場所じゃない――。
クラウドはゆっくりと扉を閉じていった。視界が遮られ、徐々に光さす泉が見えなくなっていく。
(いつでも戻ってこれる)
ガシャンと音を立てて扉が閉まった。
クラウドはバイクに戻ると、またがりエンジンをかけた。
目の前の教会を見上げると、崩れかけたステンドグラスに光が反射していた。
何かを祝福するようにその光がクラウドに降りそそぐ。
(またティファと来る、子供たちも連れて)
胸の中で二人に話しかけると、クラウドはバイクの方向を変えた。
「セブンスヘブン」でティファたちが待っている。
(ここにいてわかったんだ、俺の探してた場所がどこにあるのか・・・)
バイクで走り出すと、背にした教会から懐かしい二人の気配を感じた。
けれど、クラウドは振り返らない。
帰るべき場所が、愛しい人が、もうどこにあるかわかっていたから―。
「何か、ほんとにしっかりしちゃったね」
「そーだな」
「全然頼りにされないのもちょっと寂しいなぁ」
「肩の荷が一つ下りたじゃん、これでよーやく二人きりになれるし」
「もう、・・・・・・じゃあ、行こうか」
「あぁ・・・」
二つの優しい気配が、空に、消えた――。
end
AC後日談小説第二段です。
本当に勝手な脳内妄想ですので、矛盾点とか多々あるとは思うんですが、何とかクラウドのACの頃の想いとかを書きたくてこうなりました。
基本がクラティで書いてますので、クラエア派の方はお許し下さい。
最後の会話はもちろんあのお二方のつもりです。
わかりづらいでしょうか?
何か全体的に、気配の文字が多い・・・。
少しでも私の書きたかったものが伝わると良いのですが・・・。
ご感想・ご意見等ありましたら、ぜひお聞かせくださいませ。
ここまでお読みくださりありがとうございました!
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