ブレーキ音、砂埃が舞う。

クラウドが仕事を終え「セブンスヘブン」に着いたのは、ちょうど日が沈み終わったところだった。
店の窓からは不安定ながら明かりが溢れ、賑やかな声が聞こえてくる。
昨日の騒ぎにも関わらず、今日もティファの店「セブンスヘブン」は繁盛しているようだ。
エッジに住む常連たちにとっては、昨日の騒ぎもたいしたことではなかったのかもしれない。

二年前のメテオ以来、人々は必死にこの世界の再建に努めてきた。アレくらいの騒動でくじけるわけにはいかないのだ。
そしてティファの店はそんな復興に尽くすエッジの人々にとって、かけがえのない憩いの場所になりつつあった。
わずかばかりの料理と酒。
出しているものは格段変わったものではなかったが、この店には人を引きつける魅力があった。

もちろんティファが苦心して考えたメニューも素晴らしかったが、何よりも人々を引きつけたのは彼女の人柄だったろう。
毎日の先が見えぬ仕事や生活にくじけそうになった人々を、この店とティファはいつも暖かく迎えていた。
この場所で笑いあうことが、日々の疲れを癒していたのかもしれない。

初めは店を開くことに不安を口にしていたティファだったが、徐々に店に常連ができ、彼らの噂話がさらに店に新たな客を呼び寄せた。
ティファの不安はいい意味で裏切られたのだ。

クラウドはバイクを店の脇に止め、入り口に向かった。
扉を開くと、すぐに賑やかなしゃべり声に包まれた。やはり今日も店は満員のようだ。

「お帰りなさい、クラウド!」

すぐに気がついたティファが声をかけた。クラウドを見て嬉しそうに笑う。

「ただいま、ティファ」

そう答えるとクラウドはカウンターの中にいるティファの方へ向かった。
満員といっても小さな店のことだ、すぐにカウンターへたどり着く。

「・・・よかった、無事で」

「?」

「心配性なの、誰のせいだと思ってるのよ?」

少し頬を膨らませてティファが言う。だが本気で言ってるわけではなさそうだ、声が笑っている。

「もう大丈夫だ」

安心させてやりたくて、クラウドはカウンターの上にあったティファの手を握ろうとした。その時――

「おいおい、クラウドじゃねえか!お前ここに戻ってたのか!」

店内の真ん中あたりのテーブルにいた男が声を上げた。

クラウドが振り向くと、酒に酔った赤ら顔の男が座っていた。
年の頃は五十過ぎ、この店が開いた直後からの常連だ。たしか名前は――

「リド、久しぶりだな」

「おう!お前こそ元気だったか?」

リドは席を離れカウンターに近づくと、クラウドの肩をたたく。

「あぁ」

短い返事だがクラウドはこの人物のことを前から好ましいと思っていた。
二年前からの常連ということで、彼はクラウドとも顔なじみだった。
ティファを孫娘のように思っているのか、店によくやってきては楽しそうに飲んでいった。
あまり言葉を交わしたことはなかったが、そんな彼の姿をクラウドはよく見かけている。

リドは次にティファの方を向くと、よかったなぁと彼女の肩もたたいた。

「心配してたんだぜ、こいつがいなくなってから気落ちしてるのまるわかりだったからな!」

「や、やだっ。何言ってるのよ!」

ティファが赤面した。クラウドの方を見て、目が合うとますます顔を赤くする。
そんな彼女が面白いのか、リドの話は止まらない。

「仕事も手についてなかったじゃねえか。ぼーっとして、グラスを何個割ったと思う?11個だ、間違いねえぞ」

「ち、違うわよ!そんなに割ってなんか・・・・・・」

慌ててティファは反論するが、その頃には三人の話を聞いていた他の客たちからもティファにひやかすような声が飛ぶ。
クラウドは真っ赤になるティファを見て、頬が緩むのを感じていた。

(まずい。すごい、嬉しい・・・・・・)

酔っ払いたちには慣れているはずのティファが、からかわれて真っ赤に頬を染めている。
それが自分のためだと思うと、不謹慎にもかわいいと思ってしまった。

「とにかく、本当によかった!二人とも、俺の分まで幸せになるんだぞぉぉぉぉ・・・・・・」

リドの語尾が泣き声に変わる。彼は泣き上戸なのだ。
そしてそのままつっぷしてしまうと、次に大きないびきが聞こえてきた。

「もぉ、・・・起きてリド!」

ティファが肩を強くゆさぶっても起きる気配はない。

「いつも最後はこうなるのよね・・・」

ティファがクラウドの方を向き、可愛く肩をすくめた。
クラウドもカウンターでつぶれたリドを見て苦笑する。

「しばらくしたら起きるだろ・・・。俺も一杯もらってもいいか?」

眠りに落ちたリドの隣にクラウドは腰を下ろすと、面白そうに頬杖を付いて彼を見下ろしている。

「いつものでいいよね?」

「あぁ、いつもので」

クラウドの返事を聞き終わる前から、ティファはその酒の瓶に手を伸ばしている。
こういった些細なやり取りすら、今のクラウドには嬉しかった。
昨日までの自分にまたこんな時間が戻ってくるとは―

(考えもしなかったな・・・)

カタン。

ティファがカウンター越しにクラウドの前にグラスを置いた。
グラスの中には濃い赤紫色が満たされている。

「はい、どうぞ」

クラウドはそのグラスに手を伸ばし、口へ運びかける。が、手が止まった。

「何を見てるんだ?」

ティファがクラウドの目の前でにこにこと笑っている。
どう考えてもティファは自分を見ている。じっと見られると、さすがに気恥ずかしい。

「・・・そんなに見るな」

「だって、嬉しいんだもん」

「何が?」

「・・・クラウドがここに居るのが」

自分の言葉に、ティファは恥ずかしそうに微笑む。

「ティファちゃーん」

「あ、はーい!」

誰かがティファを呼んだため、彼女はクラウドの前から離れた。
ティファもきっと俺と同じだったんだ。また、こんな時が来るとは思わなかった。
くるくると立ち働くティファを、クラウドは眩しそうに見つめた。
大切にしたい、彼女を、この場所を。

「あの人って、ティファちゃんの彼氏なの?」

クラウドとは反対側のカウンターに座っていた男たちが、ティファに話しかけている。
男の片方がクラウドを見ていた。

(見たことないな)

男の顔に覚えはなかった。きっとクラウドがティファの元を離れてからこの店にやって来た客なのだろう。
男たちの方もクラウドを初めて見たので、あんな質問をしているのだ。
ぶしつけな質問に、ティファもびっくりしている。

「なぁ、どうなの?」

酔いにまかせティファの長い髪へ手を伸ばした。どうやら彼らはティファに少なからず好意があるようだ。

「・・・・・・・!」

ティファが何か言おうとした時、それよりもすばやく彼女とは別の手が男の手を払いのけた。

「・・・クラウド」

男たちは驚いてクラウドを見上げる。

「悪いが、・・・勝手に触られたら困る」

一瞬むっとした男たちだったが、クラウドの体格を見ては抗議の言葉も引っ込んでしまう。
並みの男がクラウドに敵うわけがないのだ。
男たちがティファに伸ばした手を元に戻すと、クラウドも自分の席へと帰った。

このやり取りで一番驚いたのはティファだった。
これまで客とティファとクラウドの三人で、こういった会話がないわけではなかった。
こんな時クラウドはいつも黙っているか、知らないフリをすることが多かった。
単純に人とのコミュニケーションを取るのが苦手だったのか、面倒くさかったのか。
ティファはそのたびに腹立たしく、寂しく、もどかしかった。

そのクラウドが、こんな行動に出たのだから驚かずにはいられなかった。

ティファは席に戻っていたクラウドに話しかけた。

「・・・どうしたの、クラウド?」

「別に・・・」

クラウドはティファの大きな瞳から目をそらした。
けれどその翡翠色の瞳にあったのは、わかりやすい感情だった。

(簡単に、触らすな)

誰もが持つ、単純な嫉妬。
これまでのクラウドにこんな感情はなかった。いや、あったとしてもそれを表に出すことはまったくなかった。
自分にはそんなこと思う資格がないと、クラウドは思っていたのだ。
だが今は違う。年相応の独占欲、嫉妬。

(何、してんだ俺は・・・)

自分の口に手を当てると、小さくつぶやいた。いつの間にか勝手に身体が動いていた。
ティファに触れようとする手が、なんだか気に入らなかった。だから、割って入ってしまった。
これまでと違った自分に、頬が赤くなってくるのがわかる。
目の前でティファが嬉しそうに笑っているのが、クラウドの焦りに拍車をかけた。

「・・・・・・あっち、呼んでるぞ」

クラウドはそう言い、ティファの視界から自身を外した。
肩越しに指差した先で男たちがティファを呼ぶように手を振っている。

「はーい!」

返事をしながらティファがそちらに向かう。
クラウドは少しうつむいたままグラスを傾け始めた。
けれどティファは見逃さなかった。

金色の髪の間からのぞいたクラウドの両耳が、真っ赤に染まっていることを・・・・・・。

 





end











クラティ小説第三弾です。
今回は、何だかかなり乙女チックなことに。
それと勝手な新キャラが・・・。リドってなんですか?(自分にツッコミ)
リドはもちろん勝手に作ってしまったキャラです。バレットがおじいちゃんになったイメージで(笑)
何かクラウドのキャラがだいぶ変わってしまいました・・・。
思春期の高校生か?!(笑)クラウドも男なので、こんな感情もあるんじゃないかと・・・。。
しかし、今回はほんとに恥ずかしい話になってしまいました!
BACKでお戻りくださいませ。



>>BACK