「けどさ、なんであいつ急に戻ってきたんだ?」

客の一人の何気ない問いかけに、ティファの動きが止まる。
が、すぐにまた手は動き出した。
正直なところその問いにはドキリとしたけれど、何にもないように笑顔を作る。

「・・・色々と、やらなきゃいけなかったことに、かたが付いたってとこかな?」

あいまいな言葉。
いくら仲のいい相手でも、全てを話すのは難しい。

「ふーん、仕事でも片付けてたか」

客は何か少し誤解していたようだが、一応なっとくしたようだ。
ティファは嘘を付いたわけではないが、少しばつが悪い。

「こんなご時勢だもの、やらなきゃいけないこととか、やり残したこととか、きっとあるんだよそれぞれ」

最後の方は自分に言い聞かせるように、ゆっくりと口にした。

「クラウドがやり残してたのって一体何なんだ?」

先ほど目を覚まし飲みなおしていたリドが、それまでのティファの相手に代わり話を続けてきた。

「えっと・・・・・・」

ティファは言葉につまる。
どこから、何を話していいのか。

リドは「セブンスヘブン」再建にも協力してくれた馴染みの客だ。
ティファの過去、彼女が「反神羅組織アバランチ」に属していたこともうっすらと知っている。
クラウドやバレットとももちろん顔見知りだ。

そんな彼にいい加減な返答は出来ないし、かといって真実も話せない。
ティファの困った顔を見て、リドが笑う。

「ハハッ、そう困るなよ。ただ気になっただけだ。ティファがまだ何か気にしてるように見えたもんでな」

彼女の何気ないしぐさに、リドなりに何か感じ入るものがあったのだろう。

(リドってすごいなぁ・・・)

人の気持ちを優しく察してくれるこの男は、近所でも良き相談役として頼りにされていた。
そして彼は、孫娘のように思っているティファを、いつも気にかけていた。

ティファは伏せていた目をリドに向けた。その目には小さな光が宿っている。
幸い店には数人の客と、リドしか残っていない。

「・・・私たちが、神羅に対して色々やってきたこと、リドは知ってるよね?」

ティファはゆっくりと言葉を選びながら切り出した。

「あぁ、知ってる」

リドが小さくうなずくのを見て、ティファは言葉を続ける。

「クラウドは、その時やり残したことを終わらせた、・・・と思う」

「思い残してたことがあったんだな」

「そうだね、うん。そうなんだよね・・・」

またティファは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
わかっていたつもりだったが改めて言葉にしてしまうと、胸に何か重いものがのしかかってきた。

クラウドは、想いを残してた。

(何に・・・?)

誰に・・・?

「ティファ?」

黙ったティファに、リドが続きを促すように名を呼ぶ。

「・・・・・・あのね、女の子がいたんだ。女の私から見てもすごい美人で、いい子で、優しくて。思わず、キスしたくなっちゃうような子」

「友達か?」

話が逸れたようにリドは感じたが、律儀に理解しようとする。

「うん。・・・友達で、仲間で、・・・ライバルで」

いったん言葉を切り、ティファは少し目を細める。まるで何かを懐かしむように。

「私も、みんなも、彼女が大好きだった」

「いい子だったんだな・・・」

リドが微笑む。彼が笑うと目じりにしわが寄り、なんとも優しい顔に変る。
その笑顔にティファは少し安心する。
この人なら、私の声をすくい上げてくれるかもしれない。

「こっから先は、リドちょっと信じてくれないかもしれない」

首をすくめてティファがたずねる。

「・・・あんたの言うことは、全部本当だと思ってるよ」

心外だというようにリドは方眉を上げて、コホンと咳をする。

「ティファちゃん、お代ここに置いとくよ」

窓際のテーブル席にいた男女が扉を出て行った。恋人同士だろうか、仲良く手をつないでいる。
その二人を見送ると、店の中にはティファとリド、二人だけになっていた。

カラン。

空になっていたリドのグラスの氷が、小さく音を立てる。
ティファはそれに少しだけお酒を注ぎ、サービスよと言って笑った。

「その女の子がどうしたんだい・・・?」

リドがまたティファを促す。
ためらって、でもティファは言葉を続ける。

「その子はね、・・・この星を救ってくれたの。どうやってなのかは、うまく説明できないけど・・・」

「へぇ、じゃあその子は俺らの命の恩人だな・・・」

「そうだね」

リドは素直に感心している。本当にティファの話を信じてくれているようだ。

「・・・でも、彼女は、・・・・・・代わりにいなくなっちゃったんだ」

星を救うために。私たちを救うために。

「・・・亡くなったのか?」

「・・・・・・」

声に出せず、ティファはただうなずいた。

今でもあの時のことを思い出すと、胸が千切れそうになる。
大好きな人の死。大切なものを無くした喪失感。
自分でさえもこんなに辛いのだから、それを目の当たりにしたクラウドの衝撃はどのくらいだったのだろう。
辛いに決まっている。悲しいに決まってる。

クラウドのそんな気持ちを理解していた。理解しているつもりだった。

(・・・でも、私―)

またティファは黙ってしまった。
自分の鼓動が早くなっているのがわかる。

「クラウドはその子が亡くなったことに、責任を感じてんのか?」

「・・・うん」

少し間を空けてティファはうなずく。

彼女を見殺しにしたとクラウドは言っていた。自分のせいだと。
でもそれなら、ティファだって彼女を見殺しにしたことになる。他の仲間も。
クラウドのせいではないとみんなが言っても、彼は彼女の『死』の責任を放棄しようとはしなかった。
二年前も、そして今も―

(今も、まだ・・・?)

ティファの胸に、黒い何かがよぎる。
気持ちが悪い。

「その責任を取るために出ていって、・・・戻ってきたんだろ?」

「うん、戻ってきてくれた・・・」

リドの言葉をなぞるようにティファは口にする。

戻ッテキタ―

クラウドは私のところに戻ってきてくれた。

「あいつなりにけりをつけたんだな、きっと」

リドはティファの後ろ、奥へと続く扉をちらりと見た。クラウドはもう帰っていて、家の奥にいる。

「だといいんだけどね・・・」

「なんだ、信じてねーのか?」

「・・・・・・信じてるよ」

ティファは目を閉じた。
昨日のクラウドのことを思い出す。

帰ってきてくれたんだ、クラウドは私たちのところへ。
信じてる、信じたい。

「・・・・・・信じてやれ。お前が信じてやらなきゃ誰が信じるんだ?」

リドの言葉は、まるでティファの心を見透かしているようだ。

「本当にリドってすごいよね・・・」

「ティファがわかりやすすぎるんだよ」

「そ、そう?」

思わずティファは自分の頬を押さえる。
他の人間にも自分の気持ちはわかりやすいものなのだろうか、クラウドにも―

「本気にするなって」

リドは笑う。笑顔が子供のようだ。

「ふふっ・・・」

この笑顔を見ていると、いつもティファはつられて笑ってしまう。
店の明かりが大きく瞬いた。
今日はある程度長い間点いていたが、電気の供給はまだ不安定だ。

「そろそろ帰ったほうがよさそうだな、・・・悪かったな、長居して」

ティファは首を横に振る。
帰ろうとするリドのために、扉を開けた。
あたりはもちろん真っ暗だ。

「気をつけてね、リド」

「なに、すぐだから大丈夫さ」

扉を出かけたところで、ふいにリドが振り返った。

「そういや、ティファは思い残してることはないのかい?」

ドクンと、心臓が鳴った。
忘れかけていた黒いものが、また胸をよぎったようだ。

「ないよ?」

ティファはリドに嘘を付いた。
気づかれなければいいと、にっこりと微笑む。

「・・・・・・なら、いいんだが」

じゃあなと言って手を振り、リドは帰っていった。
扉を閉め振り返ると、店は先ほどまでの賑わいが嘘のようだ。
いくら小さい店といっても、この広さに一人はもの寂しい。

また大きく明かりが瞬いたかと思うと、消えてしまった。
どうやら店のほうの電気だけが消えているようで、奥の部屋に続く扉からは明かりが漏れている。

ティファは静かに窓辺に立った。
外は暗くて遠くまでは見えない。かろうじて視界に入るのは、側の小道と瓦礫の山だけだ。
汗ばんだ手のひらに窓ガラスの冷たさが心地いい。

ここに立つと、クラウドを待っていた夜のことを思い出す。
どこに行ったのか、なぜ帰ってこないのか。

(想い残してること・・・)

ティファは自分の胸に時々よぎる、黒いものに手を伸ばす。

本当に今、クラウドはここに戻っているのだろうか。
まだ、あの教会にいるのではないだろうか。

あなた本当は、どこに帰りたかったの?
私のところ?それとも―

ティファはリドが窓の外で、心配そうに「セブンスヘブン」を振り向いているのにも気がつかない。
その瞳は、何かを探すように窓の外を漂っていた。





end






クラティ小説第五話、いかがだったでしょうか?
今回は終始ティファ目線のお話でした。
このお話はティファがかなり後ろ向きでネガティブなので、こんな
暗いティファはありえない!と思われる方もいらっしゃると思います。
私も少し暗すぎるかと思いましたが、人間誰しもマイナス思考になる
こともあるかと思いまして。
クラウドみたいな人と付き合ってて、現実だったら悩むに決まってる!
と思い書いてしまいました。
もちろん、暗いままのティファで終わらす気はありませんのでご安心をw
BACKでお戻りくださいませ。



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