こと恋愛に関しては、いつの時代も男より女の方が察しが良いと俺は思う。
(ティファ、遅いな・・・)
クラウドがこれまでより店から戻るのが遅いティファを心配した時、マリンが言った。
「ティファが戻ってくるの遅いでしょ?」
タイミングのよさに、クラウドは驚く。
マリンとデンゼルは食事を終えシャワーを浴び、テーブルで向かい合って暖かい紅茶を飲んでいた。
上等とはいえないが、湯気が立ち昇りいい香りがする。
両手でマグカップをテーブルに置くと、マリンはソファのクラウドの方を向く。
「クラウドがいなくなってから、お店が忙しくなったのよ。何でだと思う?」
唐突な質問に、クラウドは正直困ってしまった。マリンが何を言いたいのかさっぱりわからない。
答える変わりに、クラウドは首をかしげる。
「もう、・・・本当にわからないの?」
マリンが呆れたようにクラウドを見る。
「クラウドは、もっとはっきり言わなきゃわかんないよ」
デンゼルが口をはさむ。
このセリフから考えると、デンゼルもどうやらマリンの言いたいことを知っているらしい。
「何の話なんだ?」
「自分で考えなきゃダメ」
察しの悪いクラウドに立腹しているマリンは、クラウドが自分で気がつくまで言う気はないらしい。
そう言われても、わからないものはわからない。
(しかたないな・・・)
クラウドはソファから立ち上がると、デンゼルの隣に座る。
「何の話なんだ、デンゼル?」
マリンには悪いが、デンゼルに聞いたほうが早そうだ。
「あ!クラウドずるいっ!」
マリンは文句を言うが、クラウドは少女の頭を撫でるとまたデンゼルの方を向いてしまう。
ぷうっとマリンの頬が膨れると、それを見ていたデンゼルが笑い出した。
「・・・えーとさ、マリンが言いたいのは、クラウドがいない間に客が増えたわけで。・・・えーと」
うまい言葉を捜すように、デンゼルの目が宙を泳ぐ。
しばらく考えたようで、再びデンゼルはクラウドに視線を戻した。
「・・・要するに、ティファ目当てのお客さんが増えたってこと」
クラウドは絶句する。子供二人が何を言い出すのかと思ったら、まさかこんな話題とは考えもしなかった。
「そうなのか?」
言い出しっぺのマリンに、クラウドは確認をとる。
「もう!クラウドに自分でわかって欲しかったのに!」
デンゼルに向けてそう言ってから、マリンはクラウドの方に向きなおした。
「クラウドわかってる?ティファはもてるのよ!?」
「・・・・・・」
こういう場合、なんて答えればいいのだろうか。
ティファが他の男からもてることは、クラウドだってとっくに承知している。
それも今さら始まったことではなく、子供の頃からずっとだ。
ティファは子供の時から男女問わずに人気があった。
長い黒髪に大きな瞳。子供時代のティファはそれは可愛らしかった。
けれどティファの魅力は、その容姿だけではもちろんない。
どんな人にも平等に優しく、よく気がつき、何より思いやりに溢れていた。
そんな彼女の周りには、いつもたくさんの友達がいた。
(あの頃の俺とは正反対だ)
子供の頃のクラウドはというと、そんな彼女や仲間たちと友達になりたいくせにつっぱって、馬鹿な意地ばかり張っていた。
一言素直な言葉を口にすれば、憧れていた世界の仲間になれたかもしれないのに。
昔を思い出し、クラウドは苦笑した。
本当に俺は馬鹿だった。
「・・・クラウド、何にやにやしてるの・・・」
マリンの言葉に、クラウドは過去から現実に引き戻された。
「いや、ちょっとな」
「変なの」
マリンはまた呆れたようにつぶやく。
「とにかく、もっとティファを大事にしなきゃダメなの。わかってる、クラウド?」
「わかってるよ」
クラウドは微笑む。
もっと、もっと、大事にしようと心に決めていた。
それに正直、彼女が自分以外の男になびくとは思えなかった。
自信過剰の自惚れかもしれないけれど。
「・・・ティファがどっか行っちゃっても知らないからね」
自分の話に少しも焦らないクラウドがつまらないのか、マリンはそんなことを言う。
二人の娘として、クラウドとティファのことを心配しているのだ。
「クラウドの自惚れ屋」
またマリンが、クラウドの思っていたことを言い当てた。
本当に今日のマリンは察しが良い。
デンゼルがクラウドを見て笑っている。デンゼルから見ても、今のクラウドはそう見えたのかもしれない。
「・・・そろそろ寝ましょう、デンゼル。何かもう、何を言っても無駄みたい」
マリンがクラウドをにらむ真似をする。でも目の奥が笑っているので、ちっとも恐くはない。
むしろそんな姿が、可愛いとクラウドは思う。
マリンもデンゼルも椅子から立ち上がると、廊下に続く扉に向かう。
「お休み、クラウド」
「お休みなさい」
振り向いて、クラウドに可愛い笑顔をむける。
クラウドはすぐに二人の側に行くと、しゃがんでその両手をとった。
「お休み・・・。ちゃんと、大事にするよ、ティファを。もちろんマリンとデンゼルも」
その言葉に、二人は嬉しそうに微笑んだ。
子供部屋に戻るマリンとデンゼルを見送って、クラウドは時計を見た。
もう夜の10時を過ぎている。
電気の供給が不安定なせいもあり、店は大体いつも9時頃には閉店するはずだ。
そろそろ後片付けを終えたティファが戻って来るだろう。
クラウドは食卓であるテーブルの椅子に座っていた。目の前には二人分の食事の用意がされている。
(俺たちもあんな時があったんだな・・・)
マリンとデンゼルの後ろ姿が、自分たちの子供の頃とだぶった。
もしももっと仲がよければ、自分もあんなふうにティファと並んで歩いていただろうか。
店に続く扉からは、すでに先ほどまでのざわめきは消えていた。
あの扉が開いて、ティファがもうすぐ帰ってくる。
シンとした部屋の中、クラウドは今一人だ。
早くティファに戻って欲しい。
一人はやはり寂しい。いや、ティファがいないから寂しいのだ。
こんな気持ち、何というのだろう。
「切ないって、こういうことをいうのかな・・・」
クラウドはポツリとつぶやいた。
ティファは俺にいつも初めての感情を教えてくれる。
愛しさも、悔しさも、切なさも。
全部、ティファが初めてだ。
こんなことを考えているうちに、自分の顔に血が上ってくるのをクラウドは感じた。
このままただじっと待っていては、馬鹿なことばかり考えそうだ。
(伝票の整理でもしていよう・・・)
椅子から立ち上がると、廊下へ続くドアを開ける。
廊下は真っ暗だが、わずかに光の漏れている部屋がある。
あそこはマリンとデンゼルの子供部屋だ。
眠っているかもしれない二人に気遣い、クラウドはなるべく足音をたてないように廊下を進む。
部屋の前まで来ると、先ほど自室に引き取った二人の声が聞こえてきた。
まだ二人とも起きていて、何か話しているらしい。
耳に入る前に通り過ぎようとしたが遅かった。
「あの二人大丈夫かなぁ・・・、俺、心配だよ」
「まぁ、何だかんだ言ってもお互い好きなんだから」
「そうだな、二人ともしぶといからな」
「・・・しぶとい?」
「だってそうだろ、子供のころから好きだったんだろ?」
「違うわよ、そういうのは『しぶとい』とは言わないのよ」
「じゃあなんて言うんだ?」
「こういう時はね、一途って言うのよ」
クラウドは頭を抱えた。
何を話しているんだ、この二人は。
end
第6話、お付き合いありがとうございました!
4話の続きって感じで、ほのぼのな三人のお話にしてみました。
前に書いたのがつい楽しかったもので。
でもあんまりタイトル通りの内容になりませんでしたね・・・。
しかしこのお話のクラウド、自惚れすぎというかのん気すぎというか。
幸せ一杯って感じですね。
5話の流れのティファがこれで戻ってきたら、どんなことになるのやら・・・?
次回の7話ではティファが戻ってくる予定です。(笑)
BACKでお戻りくださいませ。
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