カチャ

軽い金属音。

ドアノブが回ると同時に、クラウドは立ち上がった。

扉が開き、入ってきたのはもちろんティファだ。

「・・・お疲れ」

クラウドは労いの言葉をかけ、微笑む。
いかにもティファの帰りを待っていたようで、何だか照れくさい。

(でも、実際待ってたんだからしょうがないよな)

そう思いながらクラウドは、一回視線をはずしたティファにもう一度向きなおす。

「ティファ?」

何かに驚いているように、ティファは立ち止まっていた。
目が大きく見開いている。

「どうした、ティファ?」

クラウドがもう一度名を呼ぶと、かすかに瞬きしそれに反応する。

「クラ、ウド・・・?」

「お帰り」

応えてはくれたがティファの顔に、まだ笑顔はない。

店で何かあったのだろうか。

クラウドはその様子が少し心配で、彼女の方に一歩踏み出した。
床が、キシリと鳴く。

「どうしたんだ?何か店で―」

そう言いながら、クラウドはティファに触れようと手を伸ばした。
けれどそれより一瞬早く、ティファが自らクラウドの胸に飛び込んできた。

「・・・!」

その勢いにクラウドは驚くが、もちろんティファをその腕の中に抱きとめた。

ティファの甘い香りが漂う。
柔らかい彼女のぬくもりが、なんだかくすぐったい。

「ティファ、どうした?」

三度目の問いかけに、ようやくティファが応えた。

「ごめん。何か、びっくりしちゃって・・・」

「・・・?」

「クラウドがいるなんて、思わなくて・・・」

囁くような小さな声。

自分がリビングにいるなんて、ティファは思っていなかったのだろう。

「待ってたんだ。・・・食事、一緒にしたかったから」

「うん、・・・クラウドは、帰ってたんだよね」

(ん・・・・・・?)

クラウドは少しおかしなものを感じた。
ティファと自分の会話がかみ合っていないような。

(気の、せいか・・・?)

うつむいているためか、抱きしめたティファの表情はよくわからない。

今、ティファはどんな顔をしているのだろう。
驚いているのだろうか、喜んでくれてるだろうか。

クラウドはティファをゆっくり自分の胸から離すと、椅子に座るように促す。
ありがとうと言って、ティファは素直に椅子に座る。
その顔には笑みが戻っていた。

ただ疲れていただけだろうと、クラウドも安堵する。

暖め直したシチューを皿に盛り、ティファとクラウドの食事が始まった。

「美味い・・・」

クラウドの口から、素直な褒め言葉が漏れる。

「やだ、普通よ?」

ティファが恥ずかしそうに顔を横に振った。
ティファにとっては普通でも、久しぶりに食べたクラウドにとっては彼女の手料理はご馳走だ。

「やっぱり、ティファの料理は一番だな」

「やめっててば」

あんまりクラウドがお世辞ばかり言うので、ティファは怒ったように口を尖らした。
でもそんな姿すら可愛らしいと思ってしまう。

他愛もない食事中の会話が続く。
そんな普通の出来事が、新鮮で、嬉しくてしょうがない。

「・・・さっきさ、マリンとデンゼルを見てたら、子供の頃のことを思い出した」

「子供の頃って、私たちの?」

「あぁ、俺たちにもあんな頃があったんだなって」

「そうだね・・・、クラウド可愛かった」

ティファがクスリと笑う。

ティファの方がよっぽど可愛かったと、クラウドは思う。
けれど、どんなに懐かしがっても、二人が共有する子供の頃の思い出はあまりない。

クラウドはあの頃、ただティファを見ているしかなかったから。

あの頃のティファと自分の間には、見えない境界線があったような気がする。
それが今はどうだろう。
こんなにも近くに彼女がいる。

クラウドは自分の目の前で、スプーンを動かすティファを見た。

昔あった境界線は消え、二人で同じ世界に立っている。
あの境界線を最初に飛び越えたのは、ティファだろうか自分だろうか。

(きっと、・・・ティファだな)

自分を恐れずに、いつもまっすぐに向かってきてくれるティファ。
今まではそれから逃げていたのかもしれない。
でも、もう何も臆することはない。

胸を張って、彼女の側にいよう。

クラウドの視線にティファが気づく。

「あんまり、見ないでよ?」

何か食べている姿をじっと見られるのは、どうやら恥ずかしいようだ。

 



(シャワー、浴びるか・・・)

食事も後片付けも終わり、ティファの仕事がなくなったのを確かめて、クラウドは席から立った。

明日も仕事が入っている。
何よりきちんと起きて、四人で朝食をとる約束だ。

椅子が床をこする音に、ティファが反射的にクラウドの方を見た。

「・・・どこに、行くの?」

「ん?あぁ。シャワー浴びて、もう寝るよ」

「あ、・・・そっか。明日は四人で朝ごはんだもんね、早く・・・寝ないとね」

また、クラウドは奇妙なものを感じた。

ティファの言葉の端々に、違和感がある。
何かを探るような、何かを聞きたがっているような。
さっき店で会った時は、こんな感じはしなかった。

「・・・ティファ、何か店であったのか?さっきから、変だぞ」

その問いに、ティファは笑顔を見せた。

「ちょっと疲れてるだけだってば。みんなには、クラウド戻ってよかったねーって言われたし」

その時のことを思い出したのか、ティファは少し恥ずかしそうに微笑む。

「ならいいが・・・、もし何か―」

「明日は早く起きなきゃね!寝坊しちゃダメだよ?」

クラウドの言葉を、ティファは遮った。

「私、部屋に戻るから。シャワー終わったら教えてね」

最後まで笑顔のまま、ティファはリビングを後にする。
その後ろ姿は、クラウドの言葉を拒絶していた。

(ティファ・・・?)

気のせいではない。やはりティファは少し変だ。

(何だろう?)

何があったのだろう?
胸の中が波立つのをクラウドは感じる。

ティファの背中を見た時、クラウドはそれを前にも見ていたことを思い出した。

子供の頃、まだティファにただ憧れていた頃。

たくさんの友達を連れて歩いているティファ。
それをただ、後ろから見ていた自分。

さっきのティファの背中は、その時と同じような感じがした。

手を伸ばせば届くはずなのに、絶対に届かない。
どんなに願っても、彼女と同じ世界にはいられない。

絶望的な、境界線。

(いや、気のせいだ・・・)

クラウドはもう一度、ティファが去った廊下を見た。
何の音もしない、静かな暗闇。

不安な考えをどこかにやるように、頭を振った。
金色の髪がまぶたにあたる。

またティファが、境界線の向こうに行ってしまうことなんてない。
ティファと自分が違う世界にいるなんて、そんなこと、絶対ない。

黒い闇を背中に感じた。
けれどクラウドの瞳から、光は消えない。

(もし、そうなったら・・・・・・)




今度は俺が、ティファの世界に飛び込めばいい。








end








第7話です。いかがだったでしょうか?
何かちょっと強引過ぎたかなと、色々反省です。
このお話はクラウド目線ですので、8話ではティファ目線のお話で二人の感情の補完をしたいです。
一つのお話で両方ともの心情が書ければいいんですが、私にはそんな表現力も構成力もありませんでした・・・。
日々勉強です!頑張ります!
しかし、この7話のクラウド、かなり前向きですね〜。
ですがAC後のクラウドなら、きっとこのくらい前向きポジティブなのではないかと。
お付き合いありがとうございました!
BACKでお戻り下さい。




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