貴方の前では、花のような笑顔でいたい。
笑いなさい、笑いなさい。
全てを忘れて。
花のように、花のように―。
目が覚めると、窓から差し込む日の光に目が眩んだ。
遮るように右手をかざすと、光で白く見えていた景色が元に戻っていく。
ベージュ色のカーテン。子供たちの手書きの絵。
そして隣で眠る彼女の姿。
上半身をゆっくりと起こし、クラウドは傍らで眠りに落ちているティファを見つめた。
安らかな寝息をたてているが、その頬にはうっすらと涙の後が残っていた。
目元もわずかだが腫れている。
今はもう流れてはいないはずの涙を拭うように、クラウドはティファの目元に触れた。
昨晩の涙を流すティファを思い出すと、胸がずきりと痛んだ。
頬に触れていた手を引き、そのまま拳を握り締める。
あの涙を見て、クラウドは自分のしたことを実感した。
彼女を傷つけていたことを改めて思い知った。
(本当に、俺は馬鹿だな・・・)
もう一度、ティファに触れようとクラウドは手を伸ばす。
「んっ・・・」
その手に反応するように、ティファの長い睫毛がわずかに動く。
日の光から一瞬逃げるように身を動かすと、彼女は眠りから目を覚ました。
光に包まれたティファはやはり美しいと、クラウドは思う。
寝起きのせいで少し朦朧としているが、すぐにティファの瞳はクラウドを捉えた。
「おはよう、クラウド・・・」
「おはよう。良く、眠れたか・・・?」
「うん。・・・クラウドが一緒にいてくれたから」
ティファは半身を起こしながら、乱れた髪に手を伸ばした。
白い肌に黒髪がつややかに流れ落ちる。
「ねえ、もしかして私、目が腫れてる?」
ティファの姿に心奪われていたクラウドは、引き戻されたようにティファの言葉を聞き返した。
「・・・目?」
「そう、瞼」
ティファは恥ずかしそうに自分の目元に触れている。
「そうだな、少し・・・」
「恥ずかしいなぁ・・・」
ティファはクラウドに向けていた顔を正面に戻した。
あまり顔を見られたくないようだ。
こういった場合、気の利いた男はなんと声をかけてやるべきなのだろう。
「いや、あの。・・・目が腫れてても、ティファは綺麗だと思う」
ティファは驚いたようにクラウドの方を向く。
(・・・失敗した)
どうやらまったく気の利いた言葉ではなかったようだ。
「・・・ふふっ、嫌だもう、クラウド。あははっ」
ティファが笑い出した。
どうやらあまりにも直球すぎるセリフが面白かったようだ。
「・・・笑うなよ。慰めたつもりなんだ」
「ごめん、ごめん。だってクラウド、ストレート過ぎるんだもん」
笑われたのは気にかかるが、ティファに笑顔が戻ればなによりだ。
クラウドはそんなティファを見て、自然と微笑んでいた。
自分を見つめるクラウドの姿を見て、ティファは笑うのを止める。
「ごめんね、クラウド。ありがとう・・・」
そう言ってティファは、改めて微笑んだ。
その笑顔はまるで大輪の花のよう。
豪奢で美しい。
でも少しだけ、本当に少しだけ、儚く見えた。
もう二度とティファから離れないと、俺は誓った。
だけど気付くことが出来なかった。
ティファが昨日、二度も泣いていたことを。
花のような笑顔の理由も。
そして俺は後になって、この時のことを
とても、後悔する。
end
>>BACK