フラッシュバック ブルー アワー




コードWを探せ!

それは兵器かもしれず。

それはあるいは人かもしれず。

それは直ぐ側にあるかもしれず。

それははるか遠くに見えるものかもしれず。

それはごく当たり前のものかもしれず。

それはこの世には存在しないものかもしれず。

それは貴方の手に既にあるかもしれず。

それはもう誰かに奪われているかもしれず。



それは、それは、



の存在を、誰も    誰も





空の下 1


頭上の青い空を、何かの鳥の影が、くるりと円を描くように通り過ぎていったような気がした。
風はあまりない。

手元にある荷札の数と、伝票の枚数を照らし合わせ、今日の仕事が無事に終わったことを確認した。
クラウドは伝票の束を無造作に仕舞うと、止めてあったバイクに跨がりジュノンの街を振り返り仰ぎ見ると、バイク用のゴーグルに手をかけた。

街にたどり着く度に新たな仕事を幾つか請け負ってしまい、思いがけず一泊することになってしまった。
仕事で家に帰ることが出来なくなるのは久しぶりだった。

(早く帰らないとな・・・)

戻ったらきっとマリンとデンゼルが大げさなくらい喜んで出迎えてくれるだろう、そしてそれを見守るように少し遅れてティファがやって来る。
たぶんティファの事だから、自分の好物をさりげなく用意してくれているだろう。
そこまで想像して、クラウドははっと我に返った。

こんな惚気のようなことを往来で考えるなんて、なんてバカなんだと自分に呆れる。
いつの間にか頬が熱い。
けれどそんな自分が以前よりは嫌いではなく、苦笑するくらいで済ますことが出来る。
幸せな気分になることすら嫌悪感を抱いていた昔とは大違いだ。

右手でバイクの鍵を回すと、大きな音を立ててエンジンが廻り出す。
まるで自分の逸る気持ちと同じように、忙しない音が鳴り響く。
規則的な振動が鼓動のリズムと共鳴するようだ。

バイクの籠ったようなエンジン音が、クラウドは好きだった。
ジュノンを背に、クラウドは丘を登るように走り始めた。
バイクに乗る前はさほど風などなかったが、スピードを徐々に上げると、肌を強く撫でるように風が背後へと流れていく。

慣れた運転の感覚に、褒められる行為ではないが、空の上を仰ぐように眺める。

青い空の遥か遠くに、雲が群れのように並んでいき、その下の地上に小さな影を落としているように見える。
地平線を眺められるのは、この仕事の楽しみの一つだったりする。
雲の流れを追うように進むと、やがて道らしき通りに出る。たくさんの人や車が踏み固めて出来た道。
クラウドも何度もこの道を通った。
そして今日はこの道が我が家への帰り道だ。

「・・・・・・」

バイクの振動音に、異質な音が混じっているのに気が付いた。

初めに気が付いたのは身体に伝わる小刻みな揺れ、それから空気を震わせ別のモーター音が耳に届いた。
少し走ってもそれは離れる事はなく、むしろ少しずつ近づいて来るようだった。

何となく嫌な気分だ。

そしてついに、バックミラーに映る僅かな土煙。
何かモーターで稼働する乗り物が、こちらに迫って来ているのは明白だった。
ただ同じ道を進む、偶然同じ方角に行く者ならよいが、その土の蒔き上げ方が嫌な予感を感じさせる。

(なんだ・・・?)

土煙がカーテンのように、追ってくる乗り物の姿を隠している。
誰が、何人乗っているのかもわからない。
バックミラーにもその姿は土煙のままだ。

この乗り物の目標が自分ではなく、この道の先に続く誰かやどこかであることを願い、クラウドは道を少し逸れた。
遠回りになるが、この丘を突っ切ってしまえば、また別のルートに行くこともできる。

「ついてきてる・・・?」

丘を登りながら後ろを窺うと、黒いジープのような形が遠くに見えていた。
やや遅れながらも、クラウドのバイクについてこようとしているらしい。

やはりおかしい。

クラウドはここ数日の自身の行動を思い返し、何か追いかけられるようなことをしたか考える。
直ぐに答えは決まり、それは「いいえ」だ。
仕事はただの運送業で、今日の仕事も各家庭から家庭へのこぢんまりとした荷物ばかりで、怪しげな物、例えばこうやって追われたり狙われたりの厄介な物は、一つもなかったと断言できる。

だからこそ不気味だった。
後ろの車らしき物は、なにを狙って来ているのだろう。
荷物はもう全て届けているのだから、考えてみても思い当ることが本当にない。

クラウドはバイクを停車させた。
いつまでも追いかけられては家に戻ることも出来ないので、どういうことか動きが見たい。
バイクのエンジンはそのままに、後ろの車が追いつくのを待つ。

だが追いつくよりも先に、車の方で何かが光るのが目に入った。
それは不自然な空気音を放ち、さらに土煙を舞いあがらせる。

「冗談だろ・・・?」

口から漏れる、そんなありきたりな台詞。
青い空に白い雲を小さく作りながら、伸びていく鉛の物体。
空高く登りきると、後部に火花が走り、勢いを増しこちらにまっすぐ向かってくる。
この間僅か数秒、ミサイルは間違いなくこちらは狙っている。

考えるよりも身体が動く。 バイクを切り返すと、一気にスロットルを開いた。