フラッシュバック ブルー アワー




花と少女 1



花の色は黄色だった。

エアリスはその日もいつもと同じように教会で花の世話をしていた。
雑草を取り、水をやる。
虫が付いた葉を見つけたら、虫ごとそれを摘み取った。
さほど広くない場所なので、手入れを毎日続けていれば、一日の世話はそれほどかからない。
今日も花は元気だったし、ステンドグラスから差す僅かな光は綺麗だった。

いつもの日常。
いつの間にかこれがいつもと変わらぬ日々になっていた。

朝目覚めると母が用意してくれた朝食を食べ、少しだけ家の手伝いをする、その後は午前中に花の世話をして、その後は花を売りに行く。
帰ってきたら夕食は大体母が作ってくれていた。そんな毎日。

それが、エアリスの日常だった。

数年前と変わったことが幾つもあったはずなのに、それがいつの間にか日常になっている。

不思議な感覚だ。
驚きが当然の事に変わっている。

それが良いことなのか、悪い事なのかはわからない。

「よいしょっ、と」

立ち上がり、癖のように汚れてもいないスカートをはたく。
ピンクのワンピースのすそが揺れた。
屈んでいたのが窮屈だったので、エアリスは全身を伸ばすように大きく腕を上げる。

「はあ・・・」

息を吐き、両腕を元に戻し、花畑を見つめる。
黄色の花が咲き乱れていた。
今も昔も花たちはエアリスが手塩にかければ、それに応えるように見事に花弁を広げてくれた。

「売りに行こう、お花・・・」

これもいつもの日課だった。
プレートの上部、今日は七番街に行ってみようかと思いを巡らす。

そしてふと、初めてプレートの上に花を売りに行ったのはいつだったかと思う。

(思い出せないな・・・)

そのことを話して母に心配されたこと、実は後になってツォンが付いてきていたことが分り彼に声を荒げたこと、そんなことは覚えているが、いつ頃だったかというと曖昧だった。
そして初めは驚いたプレートの上の街も、今はもう普通に行き来するようになっていた。
どうやって渡ればいいのかわからなかった横断歩道も、車や人の多さも、もう全てが日常だ。
全てが何気ない毎日になっていく。

驚いたことも。嬉しかったことも。悲しかったことも。切なかったことも。
それが良いことなのか、悪いことなのか、エアリスにわからないまま。

大きく咲いた頃合いのよい花を選び取っていると、傍らで放置されたままのワゴンが視界に入った。

これがいつ壊れたのかは、曖昧に覚えている。曖昧に。

(会えなくなって、少ししてから・・・)

見る度に、あの人を思い出す。

「エアリス!」

驚いて、花かごを落としてしまう。
過去の想い出から、突然呼び戻された気分だった。

「久しぶり。近くまで来たから寄ってみたよ」

「・・・こんにちは、カンセル」

軽く手を振り、カンセルが入口からやって来る。