ある日、ティファとマリンはミッドガルの外に出かけた。
始めたばかりの「セブンスヘブン」も今日はお休みだ。
いつも店を手伝ってくれるマリンを、ティファはたまには子供らしく遊ばせてやりたかったのだ。
どこに行くのか検討を重ねた結果、せっかくなので少し遠出をしてみようと、ミッドガルの外に残るわずかな草原へのピクニックが決定した。
夜が明け始め、空がうっすらと赤く染まりだす。
朝独特の凛とした空気がエッジを包んでいた。
朝からティファは、マリンにねだられたサンドイッチを作っている。
ハムとチーズ、それにマリンの大好物のイチゴジャム。
ティファがサンドイッチを作り終えた頃、マリンが自分の荷物の準備が終わったとキッチンへやって来た。
「わぁー!美味しそう!」
可愛らしいサンドイッチに、目を輝かす。
「草原についたらね」
パタンと入れ物の蓋を閉じ、ティファは微笑んだ。
手をつないで、ティファとマリンはピクニックに出発した。
朝の街中はまだ静かだ。
ティファはマリンの歩調に合わせ、ゆっくりと進む。
(クラウドも、いればよかったのに)
一緒に暮らす、もう一人の家族のことをティファは思い浮かべた。
クラウドは今、ジュノンにいるはずだ。
最近クラウドはセブンスヘブンの食料調達の他に、新しい仕事を始めた。
『業務エリアはミッドガルを中心とした世界全域、ただしバイクで行ける範囲』
こんなキャッチフレーズで、『ストライフ・デリバリー・サービス』はスタートした。
交通手段が限られ、モンスターが徘徊する。
そんな世界では人々の行けるところも限られていて、クラウドのこの仕事はとても喜ばれた。
その仕事のために、クラウドは昨日ジュノンに向かったのだ。
帰ってくるのはきっと明日ぐらいだろう。
(クラウド、まだジュノンにいるのかな)
クラウドが仕事を始めてから、三人がそろうことは少なくなっていた。
今日のピクニックもクラウドへもちろん声をかけたが、仕事のせいで来れなくなってしまっていた。
仕事に文句をつけるつもりは無いが、純粋にティファは寂しかった。
(わがままかな、私・・・)
ジュノンがあると思われる空に、ティファは視線を向けた。
雲の隙間から幾すじか日の光が射している。
あの空の下に、クラウドはいるのだろうか。
クラウドのいない時間が増えるほど、ティファが彼を想う時間は増えていた。
「ティファ?」
マリンがティファの手を引いた。
それが遠くに行っていたティファの意識を引き戻した。
そこはわずかに残った草原だった。
ティファの足首くらいまで青々とした葉が伸び、風がそよそよとその葉を揺らしていた。
他の場所が岩をむき出した荒野であることを考えると、ここは小さなオアシスだ。
「わぁーい!」
マリンが身体一杯に風を受け止めながら走り出す。
ティファの長い髪も、その風で大きくなびく。とても気持ちがいい。
「あんまり遠くに行っちゃダメよー!」
大声でティファが言うと、マリンがわかったというように手を大きく振った。
エッジではまったく植物を見ることが出来ないので、こんなたくさんの緑を見るのはマリンにとって久しぶりだ。
マリンが喜んでいるのがティファは何より嬉しかった。
足元の草の感触を楽しむように、ティファは歩いてみる。
エッジの地面とは違う柔らかい地面の感触。
「ティファー!」
マリンがティファの名を呼び、こっちに来るように手招きしている。
何か地面の方を指差していた。
(なんだろう・・・?)
小走りにティファはマリンの元に向かう。
「何かあったの、マリン?」
腰をかがめて、マリンの瞳を覗き込む。
くるくると嬉しそうにマリンの目が動き、地面を見下ろした。
「ここ見て、ティファ!」
ティファがマリンの視線を追う。
そこには、小さなクローバー畑が広がっていた。
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