「はあぁぁぁっ!?」


ガタンと大きな音をたて、彼女は立ち上がった。

カウンターに一人座り、ティファと何事か話していたその少女の大声で、
賑やかだった「セブンスヘブン」が一瞬だがわずかに静まり返る。

何があったのかと、店内の皆がティファとその少女に視線を走らせた。

「・・・・・・っ」

その雰囲気に少女は小さく舌打ちし、しぶしぶといった感じで席に着いた。
じろりとティファを見つめる。

彼女が席に着くと、店のざわめきが徐々に元に戻っていった。

「ユフィ、静かに・・・」

ティファがくすくすと笑って目の前の少女を見ていた。
彼女のために入れている暖かい紅茶を、白いカップに注ぎ目の前に出してやる。
それはふんわりと湯気を立ち上らせ、甘い香りを放っていた。


その暖かな湯気と香りは、ユフィの気分を落ち着けるかのようだったが、
誤魔化されるかとユフィはティファに向かって強い視線を向ける。

たしなめられたのも面白くないが、それ以上に大声を出す原因になった話に対して、
ティファに抗議の言葉をぶつける。

「・・・あたし、そんなの手伝わないからねっ」

「お願い、ユフィ」

ティファが可愛く両手を合わせる。

大事な仲間でもあるティファの願いだ、本当は手伝ってやりたいのだが、どうにもユフィはこの日が嫌いだった。
ぷいっとそっぽを向き、ユフィは横目でティファを見る。

「やだ。・・・あたし、クリスマスなんて知らないもん」

「だから説明したじゃない」

「・・・サンタクロースがいるって言って子供を騙すお祭り」

なんともひねくれたユフィの言い分に、ティファは「呆れた」と呟いた。
ユフィを説得するかのように、ティファの言葉が続く。

「・・・そんなんじゃないって言ってるでしょ?やってみれば違うし、クラウドを手伝ってあげて欲しいのよ」

「やだってば。なんであたしがクラウドの手伝いしなきゃいけないのよ。あたし忙しいもーん」

ユフィは忙しいと連呼するが、ティファはその姿に笑みを浮かべる。

「・・・リーブに聞いたよ。ユフィが故郷に帰るわけでもなく、ふらふらして心配だって」

リーブの名に、ユフィは眉間にしわを寄せる。

「あの、おしゃべり猫っ・・・」

神羅やセフィロスとの戦いが終わってから、ユフィは故郷に帰るでもなく、
ミッドガルや周辺の町を行き来するような生活をしていた。
故郷のウータイに帰る気にはなれず、かといってどこかでやりたいことがあるわけでもなかった。

なんとなくエッジに出入りしているうち、リーブのやっている仕事を手伝うこともあったが、
それも時々加わるといった程度だった。

何をしていいのかわからない。それが今のユフィの心情だった。

「ウータイにはクリスマスなんてなかったろうけど、今日ユフィが一人だと思ったらなんか、嫌だったんだよね」

ティファはお節介かなと、自身に苦笑するように舌を出す。

「・・・・・・」

ユフィは今日のエッジの様子を思い出した。

朝から何やら街の中が賑やかで、皆が楽しそうに歩いていた。
普段なら市場に出回らなさそうな肉や甘いお菓子がその店先に並び、赤い帽子に白髭のお爺さんが子供たちに風船を配っていた。
そんな様子を見て、しばらく考えてからユフィは、今日が「クリスマス」というものであると、ようやく認識した。

彼女のクリスマスに対する意識は、このようなもの程度だ。

ウータイには「クリスマス」というものがなかったので、故郷を飛び出してから初めて知った行事だった。

自分には関係のないもの、そう思っていた。

それが突然クリスマスに参加しろといわれても、違和感があるし、どうしていいのかわからない。

「・・・だから、クラウドのクリスマス、手伝ってあげて?」

ティファはクリスマスの楽しさを自分に教えようとしてくれているのかもしれないが、
彼女らがどうしてそこまでクリスマスを大切に思っているのか全くわからない。

「うー・・・」

まだ迷うユフィの背後に、人の立つ気配がした。
振り返る間もなく首にしていたマフラーを軽く引っ張られる。

「っ!?」

驚いたユフィが振り返ると、コートを着たクラウドが立っていた。

「そろそろ時間なんだが・・・」

少し心配そうにクラウドはティファとユフィを見比べる。

「ごめんねクラウド!ユフィも手伝うからっ」

「ちょっ、あたし手伝うなんて・・・」

ユフィは反論しようとするが、カウンターから出てきたティファにぐいぐいと扉へと背中を押されてしまう。

こういう時のティファの強引さは、ユフィが驚くほどのものだ。
この強引さをクラウドに発揮すればいいのにと普段のユフィなら思うところだが、今はそんなこと考える余裕もない。

肩越しにティファを振り返り、諦めずに叫んでみる。

「だからっ・・・、ティファが手伝ってやればいいじゃん!」

「ごめんねー。私はお店でクリスマスのパーティーやるお客さんを、お世話しなきゃいけないから」

「なにそれーっ?ティファ!まっ・・・っ!」

ティファはにっこり笑うと、ユフィをそのまま戸外へと押し出す。

店内との温度差に、思わずユフィは身をすくめてしまう。
肌を撫でる風が、刺すような冷たさだ。

身体を抱きしめるように両手を身体に回したユフィに、ティファはコートを押し付ける。

「頑張ってね、一日サンタクロース!」

満面の笑みを浮かべ、クラウドにも手を振ると、ティファはセブンスヘブンの扉を閉めた。
バタンと大きな音が鳴り、溢れていた光が消える。

ユフィはぽつんと店の外へと放り出されるような形になっていた。

「・・・・・・」

ティファの強引さと、自分の置かれた立場をうまく理解できず、言葉が出てこない。

ひゅうっと十二月の冷たい風が、ユフィの背後を吹き抜けていく。

「行くぞ、ユフィ」

受け入れがたい現実に、ユフィは恐る恐るクラウドの声に振り返る。
そこに立っていたクラウドは、これから仕事に出かけるために、大量の荷物を持っていた。
その隣には、もう一つ同じくらいの量の荷物が、別の袋にまとめられていた。

どうやらそれは、自分に運べといっているらしい。

ユフィはその光景を見つめながら、さっきのティファの言葉を思い返す。

 

『頑張ってね、一日サンタクロース!』

 

その言葉が、山彦のように頭の中で繰り返される。

握った手を小刻みに震わせ、ユフィは夜空に向けて叫んだ。


「な、なんなんだよーっ!」







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