真夜中、二つの影が人通りの少なくなったエッジの大通りを、大きな荷物を抱え歩いていた。
二人の距離は微妙に離れていて、前を進む影が時々後ろを振り返る。
「ユフィ、約束の時間がもうすぐなんだが」
遠回りに急げといわれているようで、ユフィはむすっと頬を膨らます。
自分がなぜクラウドの手伝いをしているのか。
しかも自分には関係のないクリスマスとやらの手伝いだ、納得しかねることだらけで、ユフィの足はなかなか速く進まない。
(しかも、何この荷物・・・)
持たされた荷物は、運べないほどではないがなかなかの量だった。
四角い箱らしきものが幾つも袋の中に入っている。
それが時々だがごつごつと膝に辺り、余計にユフィの気に障る。
しかも今日は特に寒い。
こんな寒い日の夜中に、自分は何をしているのだろう。
考えれば考えるほど腹が立ってしかたない。
「ユフィ」
またクラウドに急かされ、ユフィはなかばやけくそに近い気分で、小走りにクラウドへ追いつく。
「わかったってば!」
クラウドの背中を見上げながら、重たい荷物を揺らす。
「・・・バイクで行けばいいんじゃないの?」
思っていた不満の一つ目をユフィは口にする。
クラウドが荷物の配達をする仕事を始めたのはティファに聞かされていたが、普段はバイクを使っていると言っていたはずだ。
バイクなら自分が手伝わなくても、一人で配達出来るのではないかと思っていた。
「依頼主に、静かに来て欲しいと言われてるんだ。バイクじゃエンジン音がうるさいだろ」
振り返らずにクラウドは答える。
それにそんなに遠くはないと、クラウドは手に持った地図を見るように、視線を下へと向けている。
クラウドの進む道の先は、少しずつ暗い小道になっていた。
仕方なくその背について行くユフィだが、不満はやはりなくならない。
静かな夜に二人の足音が続き、通り過ぎる家々の灯りがまぶしかった。
あの暖かな光の中で、クリスマスとやらが行われているのだろう。
そんな明るい所とは真反対の道を歩く、自分になんとも気が滅入った。
それを振り払うように、ユフィは気を取り直すとクラウドに話しかける。
「この仕事、楽しい・・・?」
前から聞いてみたかった。
クラウドと二人きりになることなんてめったにない。
普段なら聞きずらいことも、今晩なら何となく聞ける気がした。
クラウドが配達屋になったとティファに聞いて、正直なところ意外だった。
ユフィの問いに、クラウドは少しだけ後ろを振り返りユフィを見る。
「楽しい、・・・かな」
すぐにまたクラウドの視線は元に戻った。
「人の役に、少しでもたてる」
「・・・人の役にねぇ」
考えるようにその言葉を繰り返し、ユフィは大きくため息をつく。
外気の冷たさに、先ほどから吐く息が白かった。
こういうのを見ると、冬になったのだと実感する。
「人の役に立つからって、何もこんな夜中に。寒いしさぁ・・・」
冷たくなり感覚がなくなりつつある指先を、ユフィは吐く息で暖めるように口元へ運ぶ。
いくら人の役に立つからといっても、こんな寒い思いをして、運ばねばならない荷物なんてろくなものじゃない。
「・・・あたしまだ今日やる手伝いっての、よくわかってないんだけど!」
ティファが見送りの時に言っていた言葉をユフィは思い返す。
「・・・サンタクロースって、どういうことよ?」
トナカイに引かれたそりに乗り、クリスマスに子供たちへプレゼントを配るサンタクロース。
赤い帽子に赤い衣装、たっぷりの顎鬚をたくわえたお爺さん。
ユフィだってサンタクロースのことぐらい耳にして知ってはいるが、それがなぜクラウドの配達の仕事で出てくるのか。
「・・・教会からの依頼なんだ。そこで世話されている子供たちに、プレゼントを運んで欲しいってな」
「教会か・・・」
教会の子供たちに、依頼されたクリスマスのプレゼントを運ぶのだという。
だからサンタクロースかと、ユフィは一応納得する。
セフィロスの一件以来、エッジでは孤児たちが溢れていた。
前々からスラムで暮らしていた孤児たちに、さらにジェノバ戦役で親を亡くした子供たちが加わったのだ。
リーブが孤児たちの問題を気にかけていたのを、ユフィは思い出す。
彼は神羅グループが崩壊した後、ミッドガルの治安維持のために、何か別の組織を立ち上げようと奔走していた。
(えっと、なんだっけ・・・、ナントカ機構・・・?)
思い出せずにユフィは首をかしげる。
何度かりーブの仕事を手伝った時、難しい組織の名前を彼は口にしていた。
「ユフィは今、何してるんだ・・・?」
唐突にクラウドに質問され、ユフィははっと声の方を見上げる。
クラウドは相変わらず前を向いたままだ。
「何って・・・」
答えられず、唇の動きが止まる。
いきなりそんな質問をされ、ユフィは驚いていた。
クラウドが自分に何かたずねるのも珍しい。
「ティファが心配してた」
(ティファがね・・・)
クラウドは自分を心配しているというよりも、ユフィを心配するティファが心配なのだろう。
ややこしいことを考え、ユフィは苦笑する。
「だいじょーぶだよ、もう子供じゃないし」
「・・・何か、やりたいことはないのか?」
「やりたいこと?」
ユフィはまた首をかしげる。
クラウドはどうやらユフィの答えを待っているようで、何も言わずに道を進んでいく。
(やりたいことか・・・)
わからないというのが、正直な気持ちだった。
故郷を出た時は疲弊していくウータイを建て直したいと、本気でそう思っていた。
不甲斐ない父親への反発心もあった。
クラウドたちと出会ってからは、初めは神羅を倒すための成り行きのようなものだったが、
最後は本当に仲間たちと一緒に守りたいもののために戦っていた。
(だけど・・・)
ジェノバ戦役が終わり、仲間がそれぞれ故郷に帰ったりしていくと、ユフィはとたんに心細い気分になった。
いままでは神羅や父親に対する怒りが彼女の背中を押していたが、それが全てなくなってしまったのだ。
暗い小道を歩いていると、その時と同じように心細い気分になる。
周りの暖かな光が少しだけ羨ましかった。
「ないのか・・・?」
クラウドの言葉に、ぐっと息が詰まる。
強気な言葉を並べようとしたが、すぐには声が出てこない。
「・・・・・・」
前を向いていたクラウドが、ユフィを振り返った。
眼が合うとわずかだが微笑んで、また歩き出す。
「探せばいい・・・。みんな、そうしてる」
話すクラウドの息が、暗い周囲に白く広がる。
意外な言葉に、ユフィの足が止まった。
探す。
何をだろう。
故郷へと帰る理由だろうか。
それともエッジで暮らす理由だろうか。
「さあ、ここだ」
数歩先に進んでいたクラウドが、その歩みを止めた。
目の前には屋根の上に壊れかかった十字架がのったとても小さな教会。
門扉の横に子供たち飾り付けしたらしい、粗末なクリスマスツリーが飾られていた。
その木はモミの木ではなく小さな名もない鉢植えだった。
エッジでモミの木を手に入れるなど、今の状態ではきっと無理なのだろう。
「行くぞ」
「あ、・・・うん」
クラウドの言葉にユフィはその思考をストップさせると、慌ててクラウドを追うために教会へと走り出す。
クラウドが進む門扉の向こう、暖かな光がユフィを迎えていた。
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